第28回 日本静脈麻酔学会 「シミュレーション麻酔のすすめ」

 この度、福井にて第28回日本静脈麻酔学会を開催できますこと、この上ない光栄です。高速道路のアクセスは良好ですが、まだ、新幹線も開通していませんし、駅前の新しいホテルも建設中です。会場も、JR福井駅から遠く離れた本学白翁会館としました。皆様には交通・宿泊の便につき大変ご迷惑をおかけ致しますが、こういったことも含めて、福井を楽しんで頂ければ幸いです。

 昨今、麻酔支援機器が発達し、自動麻酔記録器も珍しくなくなりました。特に、データ保存のみを目的とせず、収集したデータを二次利用することで、より安全な麻酔が効率よく実施できることが分かってきました。たとえば、薬剤の血中濃度や効果部位濃度の予測は、体重のみが変数であることから、実測値との差が避けられないとして、教育的効果しか期待されませんでした。しかし、その利用方法が工夫され、絶対値よりもトレンドが臨床的に有用であることが明らかとなりました。このようにして、静脈麻酔にも、経験と勘を必要としない「目盛り」が設定されて、経験が浅くても実施できる体制が整備されつつあります。これを「シミュレーション麻酔」と呼んでみました。これまでも、熟練の麻酔科医は、暗算でシミュレーションして、先取り麻酔を実施していました。ことさら、いまごろ、特別に言い出す必要もないかもしれませんが、今回は、シミュレーションの先に、機械化・自動化を視野に入れたいと思います。そのために、まず、「シミュレーション」を「近似」と認識し、臨床的に「許容できる範囲」を明確にし、「数式で表す」ことによって、モニタの情報や診療行為の指示の伝達に、ヒューマンエラーが介入することを抑制し、麻酔の安全性と効率を高めたいと考えました。

 数少ない麻酔科医の、補助や支援を考えるとき、麻酔が、単に、訓練して試行錯誤のうえ習熟するものであれば、看護師や臨床工学技師を短時間で濃密に訓練することで、麻酔科医の補助とするのも良い手段だと思います。しかし、そこはヒューマンエラーの温床で、「充分に気をつけること」といった注意喚起だけではオカレンスの抑制に限界があると思います。患者の皆様には、リスクを受容したうえで、麻酔を承諾することを強いることになると思います。また、単に繰り返しに終始し馴れてしまうと、そこに発展や改善はありません。まずは、不完全で限定的であっても、原始的なシミュレーションを運用し、次に、その限界を見極めて突破し、より発展したモデルを組み立てる工夫をすることで、医学は進歩するし、生命の理解も進むと考えます。

 現在、福井大学では、プロポフォールとレミフェンタニル、フェンタニル、ロクロニウムを頻用しています。患者の皆様は、手術を受けたにもかかわらず、熟睡感を得ることができ、楽しい夢を見ることさえよくあります。手術直後の患者さんが「あー、よく寝た。えっ、手術はもう終わったのですか。そうですか。ありがとうございました。」と言ってにっこり笑ってくれたとき、この上ない喜びに浸るのは私だけではないと思います。より良い麻酔をより安全に、できるだけたくさんの患者の皆様に届けるために、会員の皆様の英知をお授け頂きたいと存じます。
 11月6日にはズワイガニもセイコガニも解禁されて、この時期、この地域ならではの味覚をご堪能頂けます。コシヒカリの後継品種の「いちほまれ」の新米も豊作でした。九頭竜川の水も美味しく、日本海に沈む夕日は格別です。福井の美酒（特製「痳水（黒龍いっちょらい）」）をご用意して皆様のお越しをお待ちしています。